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◆クリープハイプ・尾崎世界観の世界その3,小説「母影」・なんて静かで、なんて穏やかで、なんて素敵なんだろう。こんな小説は読んだことがない。

これは芥川賞候補になった作品らしいのですが、

ここあるのは、尾崎世界観氏のやさしさの世界ですね。

障害のある母親が、マッサージと称し、

男性たちにいかがわしい性サービスをするその店のベッドの、

カーテン一つで仕切られた隣のベッドで、

主人公の少女は、宿題のドリルをしたり、居眠りをしたりして、

じ~っと息を潜め、母親の仕事が終わるのを待ちます。

少女はうすうす気づいています。

お母さんがおじさんたちと恥ずかしいことをしていること。

そしてお母さんはどんどん苦しそうで変になっていっていること。

そのお母さんを心配し、心を痛める。

そういう少女の一人称で綴られる124ページの中編は、

初めからなぜか、少女の、子供の、哀愁(切なさ)が漂っていて、

しかしその哀愁は、まさに未完成の子供の哀愁の感性で、

そよ風のように澄んいる。

うつむいている少女の言葉は難しいことを一切排し、

淡々と綴られる母と女の子の日々が、

小さな詩のように美しい。

少女の呟く言葉はなぜか、読み手の私と一体化し、

私は少女と一緒に、事の成り行きにドキドキする。

カーテン一枚を隔てて現実の汚らわしさが、

少女の言葉の中で透過され、

少女のけだかさへと昇華され、

それは少女だけでなく、母親をも

包み込んでゆく。

なんて静かで、なんて穏やかで、なんて素敵なんだろう。

こんな小説は読んだことがない。

実のところ、この小説が芥川賞を取らなかったことに

ホッとしている。

尾崎世界観君は、先生様にならないで欲しい。

そんな賞よりも、ただ、ひたすら氏の世界を書いてほしい。

無言の音楽が流れ、

まるで詩のようなその世界をいつまでも煌めかせて欲しいと、

私は願う。

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この記事を書いた人

作家。映画プロデューサー
書籍
「原色の女: もうひとつの『智恵子抄』」
「拝啓 宮澤賢治さま: 不安の中のあなたへ」
映画
「どこかに美しい村はないか~幻想の村遠野・児玉房子ガラス絵の世界より~」

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