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漱石メモ2 「それから」

今女優さんと料理人の不倫が世の中を騒がせていますが、

漱石の「それから」も主人公が友人の奥さんを奪おうと言う話です。

ただ漱石の小説は人間の自我やその自我への我執を書いています。

だから、

人間の心理の自然性や、

他人との関係性における、

不倫であり、

友人を裏切る自分、そして 

始めから自分をも裏切り、

ボタンを掛け違えてしまった人間の深層心理を

書いています。

つまりは、

ほんとうのテーマは不倫ではありませんから、

不倫小説としては、面白くありません。

また、主人公も優柔不断で、働きもせず親の援助を得て、フラフラ生きている男です。

しかし、

猫を書き、坊ちゃんを書き、そして三四郎を書いた漱石が、

実はここから、自分の内部に有ると言うか、

隠していた暗部と言うか、

それをいよいよ書き出していきます。

自分が抱える宿命的な内面の暗闇。

他者との関係性。

抜き差し成らない社会(世の中)に対する

批判や嫌悪。

それにどう向き合うか。

その始まりとして「それから」を書き始めたように私は思います。

今の人には分からない封建制社会の中で、

また家父長制家族の圧力の中で、

驚くほどの近代性を持っていた夏目漱石が、

人間とは何か、社会とは何か、そして

個人とは何か、さらに

その個人の中にある自分、自我とは何かを

最後の作品「明暗」まで書き上げていきます。

抽象論ではなく、具体的な人間関係を描きながら書いていきます。

だから自分の内面やその暗部や自分の自我を相対化していないと、

漱石の小説はなかなか理解できません。

逆に、自分をそのように相対化している人にとっては、

まるで鏡のよう自分の心が見えてくるでしょう。

心の奥底に有る水溜りに映る自分の姿です。

昨日で「それから」を読み終えました。

今日から「門」です。

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この記事を書いた人

作家。映画プロデューサー
書籍
「原色の女: もうひとつの『智恵子抄』」
「拝啓 宮澤賢治さま: 不安の中のあなたへ」
映画
「どこかに美しい村はないか~幻想の村遠野・児玉房子ガラス絵の世界より~」

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