私の母親は大変な読書好きで、
特に内田百間が大好きでした。
もう一つ百間が尊敬する漱石のエピソードも、母から何度も聞かされました。
母は漱石を紳士として尊敬していました。
そのエピソードとして、
お金に困った百間が切羽詰まり、湯河原で療養している漱石のところまで押しかけてしまいます。
百間は恐る恐るかなり高額の借金を申し込むのですが漱石は、
いいよ、
だけどここには無いから、東京に帰って鏡子夫人にそう言って
お金を出してもらいなさい。
と了承したらしいのです。
そして百間は、その旅館で一室を与えられ、
温泉に入りビールまで飲ませてもらい、ご馳走をたべます。
翌朝、挨拶に行くと、漱石からお小遣いまでもらい、
帰りは駅まで人力車で送ってもらいます。
東京へ帰った百間は鏡子夫人にお金を無事用立てて貰ったそうです。
母が話してくれたのは、
おそらく貧乏な最中、あまり身なりも良くなかったであろう百間に、
同じ文学者として、また自分の門下生として恥を欠かせない為に、
自分の賓客として扱い、
帰りもちゃんと車に乗せて送った漱石こそ、
ホンモノの紳士だと言うのです。
そして何も言わずに即お金を用意した鏡子夫人も、
見事な内助だと言っていました。
小説「道草」では、ああいえば、こう口答えすると言う夫婦仲ではありますが、
しかし、実際はかなり良い感じの
夫婦になっていったのではないでしょうか。
普段の漱石はかなり怖かったみたいで、志賀直哉なども
面会中は体が震えていたようです。
私自身も馴れ馴れしくしてくる人は苦手ですので、
気難しい人間の気持ちは手に取るようにわかります…苦笑!
ただそれでも漱石がほんとうは、
心情温かき人間であっただろうと思います。
だからこそ、相当気難しい私の母も尊敬していたのでしょう。
しかし私の母が親しんだのは、
百間先生でした…笑!
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