人間は、直面しては考える。
そして考えては、解決していく。
そういう体験がとても大切なのです。
まずは、考えさせる。
その時、
叩き台になる基軸(信念、思想)が必要です。
ほんとうは、私達おとなが、先人として次の時代の人々や若者に、
何を伝えうるか。
このドラマでは、それを問うているのです。
◯
キム・サブと呼ばれている医師は、寡黙です。
寡黙な意志の中に見えるのは、
「自分で考えろ、」です。
彼は、答えを言わずにそういう突き放しをします。
余計な事を一切しません。
若い人達が、自分で気づいてゆくまで、待ちます。
なぜ彼が待てるかというと、
そこには、相手に対する深い信頼があるからです。
最初は「バカの壁」で慢心していた若者が、
だんだん、自分は何も分かっていなかったことに気づいてゆきます。
また、自信をなくして現実から逃げてばかりいる若者にもキム・サブは
厳しく自分と向き合い、
乗り越えることを突きつけます。
キムサブは、若者を甘やかさず、
しかしその存在の意味や価値や使命を
突きつけていきます。
若者は、反抗し、もがきながらも、次第に自分でその殻を破っていきます。
一方日本の若者はどうなのでしょうか。
ちょっと日本のことを振り返ります。
日本の場合、敗戦したことで、
それまでの日本の伝統文化の根幹にあった、思想、倫理、礼節や行儀作法などの日本文化が、壊れてしまったことでしょう。
こう書いてしまうと、いかにも古臭いですが、
日本人の中に通底するそれが、アイデンティティとして、
この国の人々の無意識の中で、
エッジを効かしていたことは、
確かです。
極端に言うと、日本は戦後その壊れた文化をゼロからやり直さなければならなくなりました。
しかし、そういうまもなく、アメリカ文化が入ってきて、朝鮮戦争で、盛り上がり、
その隙間に経済優先の価値観が、ヌルっと入り込んでしまいました。
そんな中で、テクノロジー文明は進歩しましたが、
市民社会を貫徹する倫理や思想や礼節や礼義の文化は、衰退していきました。
高度経済成長の中、日本人は経済成長による夢をみました。
まるで永遠に覚めない夢のように、
それを追いかけましたが、
今、その夢も霞のように消えそうです。
つまり若者の手本になるものが次第に消えていったと私は思います。
その分、若者達は、どう生きたらいいかが、わからず、苦しく、
それが今も続いていると、私は考えます。
韓国は敗戦国ではありませんが、歴史的にはずっと中国の脅威にさらされており、
それに加えて北朝鮮という厄介な国が背中にいますから、
日本よりもっと緊張感があるかもしれません。
しかし、苦しいのは、日本の若者の方です。
彼らの虚無や、閉塞感をどのように
エネルギーに変えて、生産性や文化構築へと導いてゆくか。
ほんとうは、この国にある潜在的な
文化にあった規律、倫理、使命感などを、
私達大人や老人が後ろ姿で、伝えなければならない。
それがこの国の大きな課題だと思います。
そして未来に向けて、若者自身が、
自分で考えながら、
それらを叩き台にし、
踏み越えて、
彼らの新しい時代と文化を、
創造していく。
医師キム・サブは、それを伝えようとしている、と
思います。
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