富士正晴の世界は、時間というものが,永遠の虚空を悠然とゆくような世界で、
大阪茨木市の竹藪の中で、氏は昼寝をしながら世の中を眺めていた。
もっとスケールが大きかった。
彼が創刊した同人誌「VIKING」の懐からは、錚々たる作家達が生まれている。
島尾敏雄、庄野潤三、高橋和巳、津本陽、久坂葉子…。
私の勝手な感想では、
まだ、心というものが、羽根を持っていて、
そのおおきな翼で、広々とした大空から人間をみていた気がする。
実は30代の頃の私は二つの宝ものをもっていた。
一つは「青鞜全巻」と、もうひとつは、「富士正晴全集」。
そして若い頃の本当にお金が無い時、
私はこの二つを手放した。
「青鞜全巻」は当時のお金では大金の10万円で売り、「富士正晴全集」は覚えていない。
その頃の我が家はすっからかんであり、この希少な二つを古本屋に売りに行った。
「青鞜全巻」には余り執着がなかったが「富士正晴全集」は、
誰か本当に文学が好きな人の手に渡る事を祈った。
買ってくれた人は、私の傍線が入った正晴先生の本を読むことになる…苦笑!
私は多分、普通に比べたら、執着があまりない方の人間だと思っている。
それでもまた、あの飄々とした大らかな世界に戻りたい。
富士先生、
心がセコセコして辛いです。

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