74歳の蛹その3 命がけで書いた詩人のことば 茨木のり子、花森安治 石垣りん

本を買いました。

無印の本を二冊と、もうひとつそこにあった本と、

三冊買いました。

1冊は花森安治氏の本、もう一冊は茨木のり子氏の本

そして残りの一冊は、私と同じ歳で、私が若いころに新進気鋭といわれた

某作家の本です。

なぜ、某作家というかというと、

私はこの本の悪口を書くからです…笑い!

実際この本はつまりませんでした、一番高かったのに。

まあ、おしゃれですが、今どきの空疎な言葉ばかりが連ねてありました。

それに比べて、花森さんも茨木さんも、言葉がキラキラしていて

平易だけれど、核心を突く言葉が、厳しく、そして優しく書かれています。

なぜなら、言葉は命だからです。

私も言葉は、外へ飛んでいく私の分身だと思っています。

だから、一言なりともおろそかに吐かないのです。

そこに作家や詩人の矜持があり、使命があると思うからです。

特に戦争中にコピーライターとして、

戦争を鼓舞するような言葉を書いてしまった花森氏は

それを悔い、だからこそ民衆(無名の人々)へ向けて

渾身の言葉を書きました。

その命をかけた言葉が、花森を透明にしてゆきました。

ちょっと少しだけご紹介します。

 美しい夜であった

 もう 二度と 誰も あんな夜に

 会うことは ないのではないか

 空は よくみがいたガラスのように

 透きとおっていた

 空気は なにか焼けているような

 香ばしいにおいがしていた

 どの家も どの建物も

 つけられるだけの電灯をつけていた
 
 それが 焼け跡をとおして

 一面にちりばめられていた

 昭和20年8月15日

 あの夜

 もう空襲はなかった

(詩「見よぼくら一銭五厘の旗」から抜粋)

もうひとつ、これは石垣りんさんの詩です。

       
      崖

 戦争の終わり、

 サイパン島の崖の上から

 次々に身をなげた女たち。

 美徳やら義理やら体裁やら

 何やら。

 火だの男だのに追いつめられて。

 とばなければならないからとびこんだ。

 ゆき場所のないゆき場所。

 (崖はいつも女をまっさかさまにする)

 それがねえ

 まだひとりも海にとどかないのだ。

 15年もたつというのに

 どうしたんだろう。

 あの、

 女。

これだけ読むとなにがなにやらさっぱりわからないでしょ!

つまり戦争で、米軍に追い詰められた日本軍がサイパン玉砕をとなえ、

米軍陸上の寸前に、

次々と崖から飛び降りて(飛び降りることを強制されて)

命を失った(国に捧げた)女たちのことです。

その姿を米軍が撮っており、

戦後に公開されたその映像をみて、

詩人石垣りん氏が

なんの大儀もなく、なんの義理もないのに

なんの美徳もないのに、

戦争と男たちにおいつめられて、

海へと飛び降り、命をたった女たちの魂は

海へすら、とどかず、成仏できず、

そのまま空中に漂い続けている、と。

あの女たちはなぜ死ななければならなかったのか、

その魂はどこへいったのか、と

嘆いたのです。

茨木さんはこの詩に衝撃をうけ、

第二次大戦をテーマとした詩の中で、

もっともすぐれたものの一つだと書いておられます。

さらに

「辞書をひかなければわからないという言葉はなく

詩的修飾もまるっきり施されてはいないが、

しかし、きわめて難解な詩だといえよう」

と評されている。

言葉は、或いは、言葉で表現されるものとは

茨木さんの表現を借りると、

・その体験をみずからの暮らしの周辺のなかで

・組み立てたり、ほぐしたりしながらある日

・動かしがたく結晶化させたものだろうと。

言葉は完璧でなければならないことはないのです。

ちぐはぐであったり、とぎれとぎれであったり

ごもごも、もぐもぐであったりでも

いいのです。

ただその人の、伝えようとする何かが

生まれていればそれでいいのです。

おしゃれな言葉を言う必要も、書く必要もありません。

無駄な言葉を撒きちらかすことも、いらないです。

ただ朴訥で、ただ正直で、ただ一生懸命の時、

言葉はどんどん透きとおって相手の心へとびこんでいきます。

最後に50年もまえの、私が20代の頃、

初めて出会った茨木さんの詩「汲む」から

どうぞ!

初々しさが大切なの

人に対しても世の中に対しても

人を人とも思わなくなったとき

堕落がはじまるのね 堕ちてゆくのを

隠そうとしても 隠せなくなった人を何人も見ました

私はどきんとし

そして深く悟りました

(「詩「汲む」より抜粋)

言葉は命、そして初々しさが大切なのだと、今も私は思います。

名前を憶えていないのですが、若い陶芸家さんの作品です。一目見て気に入り買いました。
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この記事を書いた人

作家。映画プロデューサー
書籍
「原色の女: もうひとつの『智恵子抄』」
「拝啓 宮澤賢治さま: 不安の中のあなたへ」
映画
「どこかに美しい村はないか~幻想の村遠野・児玉房子ガラス絵の世界より~」

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