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漱石メモ10、漱石の女性観、その1、女性を幻想化しなかった唯一の作家漱石!

それではいよいよ漱石の女性観を

その作品から手繰っていきます。

     ◯

明治になり西洋から近代小説が入ってきた時、かの坪内逍遥先生が言いました。

これからは心理学ですぞ!

小説書くなら心理学を勉強しなはれ!と、

関西弁で言ったかどうかはわからないが…笑

当時の作家達はこぞってそっちへと走りだしました。

ところが心理学といっても、

底の浅い表面的な男の心理、女の心理のあれこれで、そのレベルで、

恋愛ものや、自然主義文学のように、

自分の主観の内面を懺悔するというようなものが書かれていきました。

自分の内部を切り裂いて、

自分が持つ思い込みや自己幻想や

男女の対幻想(恋愛幻想)を削ぎ落として、

人間の⭕️深層心理を炙り出すような小説を書いたのは、

漱石だけだと思います。

漱石だけが、厳しく自分にメスを入れながら 

あの時代に、

人間の⭕️無意識領域を描き出していきました。

そして私が最も評価したいのは、

漱石だけが、

男が持つ女性幻想もはぎとり、

逆に女を美化せず

自分が直面した女性の赤裸々な姿を描きました。

その彼女達が、男の主人公達の前に立ちはだかるのです。

そのトップバッターが「行人」の主人公一郎の妻、直です。

小説「行人」では、女に依存し、甘える男の自意識がことごとく粉々にされていきます。

主人公の一郎は嫁のお直さんから追い込まれ、精神を病んでいきます。

お直さんは夫一郎の甘えやわがままに対してとても冷淡です。

一郎の中には自分を理解して欲しいと言う欲求や、

自分の意に従って欲しいというということをお直さんに求めるのですが、

夫とは別の考えや違う意識を持っているお直さんは、

時には反抗的であり、平気で無視してしまいます。

男の目から見たら、

或いは男の都合からしたら、 

ああ言えばこう言って男にたてつくお直さんは、

我を張る嫌な女かもしれません。

でもね女の側からすれば、

男に対して対等に生きる⭕️人間としては、

しごく当たり前のことです。

お直さんとの確執が頂点に来た時、

一郎は癇癪を起こし、彼女を打擲してしまいます。

そうして彼女に暴力を振るった後に起きるのは、

一郎自身の、

男として敗北した自分への絶望です。

しかし、しかしね、

それは紛れもない現実であり、

夫婦の幻想をとっぱらった、

生々しくそして対等に生きている、

人間と人間としての男と女の

赤裸々な姿でしょ。

「行人」は、夫婦の葛藤を描いた小説のように見えますが、

その行間から見えてくるのは漱石の女性観です。

このように男に対して対等に、

仁王立ちに立ち向き合う女性を描い

た日本の男性作家を

私は他には知りません。  

そこには、

まだまだ男尊女卑が通常の意識であった明治において、

対等に、男の本質、女の本質を見極め書こうとする漱石がいます。

「行人」「道草」と漱石はいよいよ容赦なく男女の断絶を書いていきますが、

それに比例して、

描かれた女達はまさにイキイキと息吹いていきます…笑!

しつこくいいますが、彼女達は決して男の女神ではありません。 

むしろ、男を脅かす一本の自我を持った女達です。

そして漱石最後の「明暗」では、まさに登場する女達が大変個性的です。

主人公津田の嫁も、妹も、また世話焼きの上司の夫人も、そして

かつての恋人であった女性も。

それぞれが、漱石のペンでしっかりてその個性を極められていきます。

しかし残念なことに、

その途中で漱石が倒れてしまいました。

これは私の独断的な推理ですが、

もしかしたら、これらの個性溢れる女性は、

最終的には、

男を乗り越えてしまうのではないか、と推理するのです。

つまりそういう小説を、漱石が書こうとしたのではないか、と思うのです。

ドストエフスキーも「罪と罰」から始まり最後の「カラマーゾフの兄弟」にいたるまで、

主人公の男達を取り囲む女達が、

イキイキと個性と生命力を与えられています。

なんて素敵な女達でしょう。

その女性達を描くドストエフスキーのペンはまさに踊っています。

ドストエフスキーと漱石に共通することは、

人間はすべて対等である、という意識と共に、

おそらく彼らのこころのどこかに、

女性への尊敬があったのではないでしょうか。

      つづく。

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この記事を書いた人

作家。映画プロデューサー
書籍
「原色の女: もうひとつの『智恵子抄』」
「拝啓 宮澤賢治さま: 不安の中のあなたへ」
映画
「どこかに美しい村はないか~幻想の村遠野・児玉房子ガラス絵の世界より~」

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