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◆ 人間を書くその5、一葉の真実。

高村智恵子も、宮沢賢治も、樋口一葉も、調べれば調べるほど、

彼等のいかにも人間らしい貌が出てきた。

もがきあがく、

なまの人間の姿である。

表面は取り繕い、何事もなかったように仮面を被ろうと、

その深層心理では、彼等は苦しみ続けた。

しかしいわば、

世間とは一線を引き、覚悟をきめ、孤高の自分を生きだしてから、

彼らの本流がほとばしりでてきた。

特に一葉は凄まじかった。

彼女一家が家財を売り払い、本郷菊坂町から、

吉原下の下谷竜泉寺の長屋へ移り住んだ時の日記文は、

逸品の美しさがある。

経済的な行き詰まりが原因だと言うのが定説であるが、

なぜここに引っ越したか、或いは落ちぶれ果てたかは、

もしかしたら,裏には何かがあったかもしれないと、私は思うのだが、

調べきれない。

手掛かりになる一葉の日記も、真実と作り話とが、

錯綜されてカムフラージュされており、

特に、雪の日の半井桃水との事は、

多くの研究者や作家が日記に騙された…苦笑!

寂聴さんなんかも、本気で何があったと書いているが。

寂聴さんも甘い。

もし何かがあったならば一葉は決して日記には書かないと、

私は思う。

そしてもしそうならば、きっとその後の作品に表れる。

彼女は、日記にも小説にも、

世間に表していいものだけを書いたと思う。

なぜなら、

彼女は世人を全く信用していないからだ。

最も大切なものは胸にしまって鍵をかけ、

決して外には漏らさず、そのまま死んだと思います。

そこに一葉の凄みがある。

「たけくらべ」の成功の後、鴎外が来ても、露伴が来ても

彼女はなびかなかった。

文学界の大物が来ても

びくともしなかったのである。

反対にむしろ私には、

一葉の哄笑が聞こえる。

苦労の連続を生きた一葉の

身を挺して文字に捧げた女性の  

たからかな誇りの哄笑が、

聞こえる。

みごとなる一生でありました。

一葉の小説は是非、

文語体でお読みください。

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この記事を書いた人

作家。映画プロデューサー
書籍
「原色の女: もうひとつの『智恵子抄』」
「拝啓 宮澤賢治さま: 不安の中のあなたへ」
映画
「どこかに美しい村はないか~幻想の村遠野・児玉房子ガラス絵の世界より~」

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