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シリーズ11、ドストエフスキーの愛の世界と漱石の則天去私の世界!

その2「則天去私」のほんとうの意味。

生きることはほんとうに厄介です。

いちばん厄介なのが自分です。

その厄介で、苦しい人間に、漱石が

語りかけているのです。

「世のに片付くものなどない」(道草)

「そんなら死なずに生きていらっしゃい」(ガラス戸の中)

これらの言葉に漱石の立ち位置が見えてきます。

「則天去私」の「則天」は、

天の則、すなわち人間の自然性の世界でしょうか、ありのままの自分です。

その天から与えられた自分の「業」の運命を、必至で受け止め、

死なずにいきてらっしゃい。と言っているように思います。 

更に「去私」とは、

「業」の中を生きながらも、

自分には必要のない感情や心、つまり

自分に執着する感情やエゴを

出来るだけ捨てておしまいなさい。

その心のゴミや闇を捨て去り、

「涙がこぼれる位有難い、そうして少しも取り繕わない、

致純至精の感情がながれだしてくる」(明暗より)

そういう生き方をしてごらんなさい、と

漱石が問いかけているように思います。

    ◯ ◯ ◯

実は私は、若い頃から、

自分が大嫌いで、世の中も、他人も嫌いでした。

いわゆる人間嫌いです。

私は感情の起伏が激しく、心の中にはマグマがあり、一度怒りに火がつくとなかなか消えません。

そのくせ、ちょっとのことに傷ついてすぐ折れてしまいます。

またコンプレックスが激しく、その裏返しの嫉妬や妬みにもなやまされました。

私は、そんな自分が嫌で嫌で、

だからもう少女の時から、早くお婆さんになりたいと思っていました…苦笑!

お婆さんになって心が枯れて、この苦しさから脱皮したいと。

この世を捨てて、

お坊さんにもなりたいと思っていたら、お寺の息子と結婚しました…笑!

そういう訳ですから、

私はいつも業と煩悩からの脱皮の繰り返しに人生を費やしたと思います。

その為に本をよみ、本の中の言葉にすがるように心を整理しては、日常性へ帰る、

そんな繰り返しであり、

つい最近まで、私の中に厭世観が、顔をだして困りました。

漱石の書簡をみると、やはり彼も人間嫌いであり、厭世感に悩まされていたようです。

それで、

自分の心がどうなっているか、

その根本の事を知りたいという思いが、

心理分析へのアプローチになりました。

ただ心理学はいわゆる心の内容を分析する為のソフト(手引き書)であり、 

次にアプローチした脳科学で漸く

⭕️脳の物理的現象として心がある事を知りました。

自分に起きてくる自我の感情や欲望は、

⭕️脳の構造的現象であり、

私達の脳の中では、

・遺伝子による不可避的自我現象と、

・育成によって成熟していく前頭葉現象の、

二つの脳現象のせめぎ合っています。

それはシリーズ10で書きました。

「則天去私」の、天の則というのは、

私達が天から貰った自然性(遺伝子の世界)です。

人間はその自然性を生きるしかないのです。

その自分に刻印された遺伝子の世界を引き受ける。

嫌なところも良いところも、

全部引き受けることしか始まらないよ、という事です。

自分がやらかした失敗も間違いも、罪も罰も挫折も

自分が為した事全部引き受ける。

引き受けた上で、「去私」とは、

我執を捨てて どう生きるか、が問われる。

くだらない自分の感情や利害や

メンツや外観やその他諸々の我欲を

すっかりお掃除して(除去して)

清明に清々しくいきる。

はてには、自分の人生をどう完成させていくのかが問われてると漱石も私も、そう考えます。

漱石の書く主人公達はみんなそこで苦しみます。

そして自分の人生は、自分だけのものでは、ない、と私は考えます。

なぜなら、シリーズ5「人類はどこで間違えたか」で書いたように、

人間は、その弱さをカバーする為に社会をつくり、言葉をつくり、

人間の歴史を刻んできたからです。

つまりは、社会でしか生きれない人間にとって生きるとは、

自分が生きるこの社会の中で、

自分をどう生かせるか、って事が

大事な、大事なことなのです。

その使命感をしっかり実感し、

魂に刻んでおく。

それは、誰も助けてはくれない、孤独な仕事です。

しかし、

それこそが、人間であることの

高邁な証なんですよ。

冒頭の明暗の中に書いてある

「至純至精の感情」は、

漱石がドストエフスキーを読んで感動して「明暗」に書いた言葉です。

次回最終回にはドストエフスキーの小説「カラマーゾフの兄弟」の最終シーンについて書きます。

なぜドストエフスキーは、あの結末にしたか。

もしかしたら、その日は私の76回めの誕生日になるかもしれないなぁ〜。

                 つづく。

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この記事を書いた人

作家。映画プロデューサー
書籍
「原色の女: もうひとつの『智恵子抄』」
「拝啓 宮澤賢治さま: 不安の中のあなたへ」
映画
「どこかに美しい村はないか~幻想の村遠野・児玉房子ガラス絵の世界より~」

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